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#08 印刷技術と職人技を掛け合わせ、新境地を切り開く KUTANism全体監修・秋元雄史が自ら現場に足を運び、ナビゲーターと対談をするなかで九谷焼を再発見していく連載シリーズ「秋元雄史がゆく、九谷焼の物語」。ここまで作家や職人たちの技や技の受け継がれ方に注目してきましたが、第8話と9話では「産業と九谷」をテーマに、産業の面から九谷焼を支えている企業を訪れます。今回伺ったのは、転写技術で業界をけん引する能美市の「青郊」です。

大正初期に開業し、創業者の代から一貫して和絵の具の研究に取り組んできた青郊。古九谷を写した「名品豆皿」シリーズを手掛け、手頃な価格で九谷焼の名品に親しむきっかけを創出しただけでなく、企業やメーカーとの様々なコラボレーションにも積極的に取り組み、九谷焼の新たなファンを獲得。比較的、量産品や廉価品といったイメージを持たれることの多い転写技法ですが、地道な経営努力により他にはないクオリティや付加価値をもった製品を生み出しています。三代目社長を務め、日々商品開発と技術革新に励む北野啓太さんに話をお聞きしました。

Guide

三代目 代表取締役社長 北野啓太さん

1974年、石川県生まれ。大学卒業後、1年間のアメリカ留学を経て家業の九谷焼メーカーに入社。2009年、九谷焼USBメモリ開発を機に、ニューセラミックを応用した九谷焼ステーショナリーなど、九谷焼を工業製品分野にも応用。国内外の様々なキャラクター、アニメ、著名人、スポーツチームなどあらゆる分野とのコラボ実績多数。

地道な研究とトライアンドエラーを繰り返し、
転写のイメージを超えた商品を生み出す。

ショールームにはこれまで手掛けた作品がずらり。

北野:
こちらが弊社の製品で、9割以上が転写で生産したものになります。
秋元:
へぇ〜!ほとんど転写なんですか。
北野:
99%は転写ですが、一部ハイブリッド的に手書きと転写を併用しているのもあります。例えばこちらが転写と手書きによるものです。転写だけで作るのが難しい場合、アウトラインや罫線などを印刷で行い、あとは職人さんが実際に筆で丁寧に絵付けをします。
秋元:
手にとっても転写かどうか全く分からないですね。あくまで感覚ですが、釉薬の盛り上がり方も見方によってはスッキリしているように感じます。
北野:
このあたりの問屋さんとお話していても「言われてみないと分からない」と言われます笑。やっぱり印刷なので多少デザイン的な制約が出てくることもありますし、「手塗り感」を出そうとしたら、その分歩留まりにも影響してくるので、そのあたりは考えながら生産しています。
秋元:
このスッキリした感じは、意図して作り出しているのでしょうか。
北野:
はい、あえてスッキリ見えるようにしています。昔うちの会社が転写を始めたばかりの頃は、業界のなかで「絵描き職人の仕事がなくなってしまうんじゃないか」と言われることもあったんです。しかし、私たちは転写で作ったものを「これは手描きで作っています」と売るわけではありませんので、あえて手描きと差別化しようと思ってこのようなテイストにしている部分も当然あります。
秋元:
転写でしかできないことをする、ということですね。
北野:
そうですね。一言で転写と言っても、洋食器のメーカーが行う転写とは少し違って、九谷焼ならではの難しさがあります。多くの消費者は品物と価格を見て「このクオリティでこの価格だったら転写かな」というように判断して購入される方が多いのですが、九谷焼の転写は技術的に相当難しい部分も多いんです。こちらの醤油差しは一見普通なんですけど、実は絵付け部分が全てシールで構成されていて、貼り合わせの部分が分からないように工夫しているんですね。

手前が転写シール。各パーツを組み合わせて、一つの絵柄として仕上げる。

北野:
例えば漆器に印刷する場合は、完成した形に直接絵を付けていくのですが、焼き物に関しては一度デザインを二次元に展開してからパーツごとに貼り付けて焼成しますので、どうしてもデザイン的に制約が出てきてしまいます。こちらの醤油差しが葉っぱの模様で全体を埋め尽くしているのではなく花鳥も描かれている理由は、あえて窓枠を設けることによってパーツ分解しやすくしているんです。もう一つ、窓枠がなぜこんな形になっているかと言うと、本当は丸のほうが良いのですが、丸だと貼り付ける際に歪みが目立つ。だからその部分をごまかすために、あえて古九谷の木瓜(もっこう)形状を用いて、このようなデザインにしているんです。
秋元:
なるほど。すごく考えられているなあ。
北野:
さらに頭の中にイメージがないと展開図を作れないので、デザインを考える人と展開図を作る人が同じである必要があるんです。貼り合わせの部分を分からないようにするためにも、あらかじめ貼り合わせる位置を想定しながらデザインを考えています。絵柄の選び方にもこだわりがあって、模様をシームレスに見せるために葉っぱの位置を細かく調整しています。デザインにも全て理由があるのが転写の特徴なんです。
秋元:
いくらデザインで工夫しても、ここまでシームレスに作るのは相当難しいですよね。
北野:
洋食器に使われる洋絵の具は貼り合わせると筋になって目立ってしまうのですが、九谷焼ではガラス釉を陶磁器に付着させますよね。だから調整段階で貼り付け部分が溶け合わさり、上手く見えなくなるんです。この特性を応用して、シームレスに仕上げています。
北野:
飯椀も難しいですね。ここまでカーブがあるとデザインを二次元に展開しづらいので、このように貼り合わせの部分をコスモスの配置で調整しています。なので、どうしてもデザインに制約は出てくる。ちなみに今の売れ筋は古九谷や吉田屋を写した豆皿なのですが、こちらは形状から計算して作っているんです。

「31日の九谷豆皿 名品コレクション」。幅広く自由な絵柄が揃う九谷焼の歴史上の名品を小皿で再現した。

北野:
僕が継いだばかりの頃は専用の形状を多く作るお金もなかったので、既存の素地に合わせて転写をしていたのですが、やはり歩留まりの問題がありました。豆皿を作り始めたあたりからどんどん勢い出てきたので、ちょっと横着なんですけど、できるだけ加工がしやすいように素地を転写に合わせていく形の生産に切り替えたんです。この商品の場合は、宮吉製陶に同じサイズで様々な深さの丸皿を作っていただいて、どれくらいの深さまでならデザインを展開せず丸のまま貼り付けられるかを試しました。
秋元:
なるほど、皿の深さから逆算するんですね!
北野:
本当は小皿としてはもう少し深さがあった方が良いんですけど、これ以上深くなると丸のまま貼り付けられなくなってしまうんですね。
秋元:
だから醤油皿のようなものも、割と浅く作られているということなんですね。
北野:
昔は職人さんもいて一つひとつ絵付けを行っていたのですが、うちの場合は商人ですので、コスト的な歩留まりなどを考えたときに転写の方がいいじゃないかと。その代わりと言ってはなんですが、デザインには相当力を入れています。
秋元:
創業時からのこのようなスタイルだったのでしょうか。
北野:
実は創業以来ずっと印刷をしているわけじゃなくて。代々、僕も含めてこの家業を継ぎたがる人はほとんどいなくて、たまたま気がついたらやっていたみたいなパターンばっかりなんです笑。僕の祖父にあたる先々代は、もともと文芸作家になりたかったと聞きました。
秋元:
全く違うなあ笑。
北野:
そうなんです笑。でも実際に大手映画制作会社に採用されて家業を捨てて脚本家として生きていくため逃げ出そうとしたときに、見つかって引き止められちゃったんです。それならば工芸作家を目指そうと考えたらしいのですがそれも曾祖父に止められ「お前は職⼈として⽣きろ」と⾔われてしまって笑。そこで祖⽗は和絵の具の研究を始め、それを産業品に応⽤したものを⼿がけました。
秋元:
面白いなあ。変に思い入れがあるよりも、かえって「嫌だ」くらいの方が上手く行くのかもしれませんね。
北野:
僕の親父も、本当はエンジニアになりたかったそうで。先々代(祖父)が亡くなっておばあちゃんと何人かの職人さんで細々とやっていたところを、こっちへ戻ってきて無理やり継いだんです。実家へ帰ってくる前、父は「今から自分がすることになる九谷焼の仕事って、どんなものなんだろう」と、当時住んでいた京都の百貨店で開催していた九谷焼の展示会を見に行ったらしいんですよ。そうしたら、お世辞にも良い品物に見えなかったらしいんですね。加えて価格が高いと。それから「俺は少なくともクオリティが高く、手に取りやすい価格のものを作りたい」と言って、初めのうちはずっと職人をしていました。
秋元:
印刷を始めたのはいつ頃からなのですか?
北野:
いまからちょうど40年ほど前です。九谷焼の産地では盛り絵の印刷を行っている会社が一切ないのですが、37、8年前に親⽗が試行錯誤して始めました。当時名古屋に盛り絵具の転写をするところがあり、そこの方にたまに指導していただいていたそうです。転写の技術については工房でご説明させていただきます。
北野:
うちには絵付け窯が全部で13基あるのですが、実は九谷焼で最大規模なんですよ。
秋元:
へぇー!すごいなあ。
北野:
⻘郊という名前はほぼ知られていないのですが、九⾕焼の⽣産量に関してはうちの⽣産量が最大規模になります。転写を貼り付ける専属の職人さんだけでも40人が働いています。
秋元:
すごい数ですね。みなさんご自宅で作業をしていらっしゃるのでしょうか。
北野:
そうですね、ほぼ自宅で内職のような形で作業をお願いしています。日々貼ったものを回収して、毎日全基をフル稼働して焼いています。九谷焼、特にうちの転写紙はものすごくでこぼこしていて気泡や水が入りやすく、なおかつ貼り合わせづらいので、一見綺麗に貼れているように見えても焼き上げると実はものすごく失敗していることもあり、そこが難しいですね。
秋元:
なるほど。この段階で不具合があったものをハネなくてはならないのですね。
北野:
それがですね、ガラス釉を使う九谷焼ならではの特徴なのですが、ここでハネずに修正をしていくんです。
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